【連載コラム】就労支援との出会い、そしてお伝えしたいこと

  私は2014年4月、脳梗塞に類する神経系の難病を発症しました。
 
 以降、立つ、歩く、座る、寝返り、他、それまで当たり前だった体の動きが全く出来なくなりました。重度の左片麻痺で、辛うじて動かせる右手一本での生活となりました。幸いにも知能に問題はありませんでしたが、 意思はしっかりしていても体が思い通りに動かないばかりか、ごく当たり前の動きすら出来ない。その時のショックは計り知れず、失意と不安で目の前が真っ暗になりました。

 「リハビリで改善が見込める」とは発症当時から言われました。でも、それがどれだけ困難かは日を追うごとに自分で分かるようになりました。
 それでも、周囲が何と言おうと「自分だけは必ず治る」「治してみせる」、「自分だけは車イスから離れられる」「離れてみせる」と己を鼓舞し信じて疑わず、すべてを排し、「リハビリ一本」と徹底して出来る限りの取り組みを続けました。
  
 それから7年、ごく僅かに生活しやすくなるも、私が望む回復程度には遠く及びませんでした。それでも「まだ何とかなる」、「自分だけは違う」と意地を張り続け、可能な限り取り組むも、ほとんど変化がないまま更に1年経過しました。それは「万策尽きた」と分からしめることになりました。この上なく苦しい思いでした。

 それからは、心身ともに究極的に落ち込み、不穏当なことばかり考え、リハビリの先生に対してもそのようなことを口にするようになりました。更に、周囲にも心配と迷惑を掛けることになりました。それと自分で分かっていてもどうすることも出来ず不本意を極める思いでした。そして、いくら悲しくても、その時以上の回復を諦めざるをえないと考えるに至りました。

 あれだけ熱心だったリハビリは中途半端。日々の生活でも何もやることがない。また、何もやる気が起こらず適当にダラダラの限りを尽くすようになり自分自身が本当に嫌になりました。私は50歳過ぎの、世間的に「まだ若い」と言ってもらえる者です。先のことを考えるほど不安になり、憂鬱な思いに始終しました。

  そんな私を見て、「それならば」とリハビリの先生に紹介してもらったのが「脳卒中・身体障害専門就労支援センターリハス」でした。

 正直、最初全く気が進みませんでした。でも、行動を起こさなければ何も変わらない。無為な自分の生き様に嫌気が差しており、己に鞭を打ってお試しで「リハス」を訪ねてみました。2022年2月のことです。
 ところが、現場に私の体で使えるトイレがなく、通所は無理と判断、「リハス」との接点も諦めました。生活を変えようと覚悟して臨んだつもりだっただけに大変残念でした。

 その後、当該 センター長より、「『リモート』で何か始めませんか」とお声を掛けて頂きました。私は世間から離れて久しく、「リモート」は一般的だとしても、イメージが湧かず気も進みませんでした。そんな気持ちを抱いていた中、前者及び当該職員さん が私の住む施設(在宅型有料施設)までお越しになられ、実際に「リモート」の就労訓練の体験をさせてくれました。そして私は、そこまでして、また、私を拾ってまでしてくれた「リハス」を追い返すことが出来なくなりました。

   それから数々の段取りを踏み、半信半疑で始めたリモートの就労訓練でした。でも、実際の訓練は私の好奇心を大いに奮い立たせてくれるものであり、手のひらを返したように何もかもが楽しくなりました。またこれは、「就労訓練」だけに留まらず生活全体を楽しくしてくれました。周囲から「表情が変わった」と言われ、それまでふさぎ込むばかりだった私の変貌ぶりは周囲を驚かせました。何よりも私自身が一番驚きました。毎日が楽しくて仕方なくなったのです。

 そこで、発症以降頑なに自分の状態を受け容れられなかった意地を捨て、前向きに諦める――自分を受け容れる――ことで過去の自分を振り切り、目の前が一気に広がる思いがしました。これは人生を揺るがす程大きな衝撃でした。
 私は、自分の弱みを盾に、本当は出来ることがあるのに何もせず、ずっと甘え続けていたのでした。また、自分を憂い続けていては何も変わらず、何も前に進まないことが痛いほどよく分かりました。

 このような経緯から、「こんなことならもっと早くに気付いておけば良かった」という思いを持つことになりました。

 しかし、それを「過去の私」に話したところで、「過去の私」は一切聞く耳を持たず、怒って即座に追い返していたことでしょう。皮肉な因果と思えてなりません。
 こう考えられるようになれたのは、「リハス」を紹介してきっかけをくれたリハビリの先生、そして、こんな私でも相手にしてくれる「リハス」に他ならず、感謝しかありません。いつか恩返しをせねばなりません。
 私はこれまで「リハス」の存在を全く知りませんでした。もし私と同じような悩みを抱える方がおられるなら、まずはこのコラムを通じて「就労移行支援事業所」や「リハス」について知って頂きたいと思います。それが前に進みだすきっかけの一つになったらいいな 、と心から思います。 
リモートでの在宅訓練に取り組む様子




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